【古事記003】スサノオ、母恋しさに涙枯れず。父の怒りに触れ追放へ

スサノオ、母恋しさに涙枯れず。父の怒りに触れ追放へ

黄泉の国からの帰還と三貴子の誕生

父神イザナキは、亡き妻イザナミを追い求め、死者の国である黄泉(よみ)の国まで行きました。しかし、変わり果てた妻の姿を見てしまい、恐ろしくなって逃げ帰ってきます。黄泉の国の穢(けが)れを身にまとったイザナキは、それを洗い清めるために川で禊(みそぎ)を行いました。

その禊の最後に顔を洗ったとき、奇跡が起こります。左目から太陽の女神・アマテラスオオミカミが、右目から月の神・ツクヨミノミコトが、そして鼻から海の神・タケハヤスサノオノミコトがお生まれになりました。この三柱の神は、他の神々とは一線を画す尊い存在であったため、「三貴子(さんきし)」と呼ばれます。

三柱の神への使命

世界の創造主でもあるイザナキは、この三貴子にそれぞれの世界の統治を命じました。

イザナキ:「アマテラスよ、お前は天上の世界である高天原(たかまがはら)を治めなさい」

イザナキ:「ツクヨミよ、お前は夜の世界を治めるのだ」

イザナキ:「そしてスサノオよ、お前には広大な海原(うなばら)の統治を任せる」

長女のアマテラスと次男のツクヨミは、父の命令を謹んで受け入れ、それぞれの持ち場へと向かいました。

母を恋しがる末っ子スサノオ

しかし、末っ子のスサノオだけは、与えられた使命を果たそうとしません。彼は、黄泉の国へ行ってしまった母イザナミが恋しくてたまらず、「ママに会いたいよぉ…」と、その長い髭が胸に届くほどの立派な大人になっても、ただひたすらに泣きじゃくるばかりでした。父であるイザナキの言うことなど、まったく耳に入らないのです。

その泣き声の威力は凄まじく、彼の涙は嵐を呼び、国土の緑豊かな山々は枯れて禿山となり、川や海はことごとく干上がってしまいました。世界には悪しき神々の声が満ち、様々な災厄が次々と起こり始めたのです。

父の怒りと追放

この世界の惨状を見かねた父イザナキは、ついに堪忍袋の緒が切れました。

イザナキ:「なぜお前は、与えられた海原を治めずに、ただ泣き喚いてこの世界を破壊するのか!」

スサノオ:「だって…僕は…亡き母上のいる根之堅洲国(ねのかたすくに=黄泉の国)へ行きたいのです…」

その答えを聞いたイザナキは激しくお怒りになり、「そんな身勝手が許されるものか!お前のような奴は、もうこの国に住むことはならん!出て行け!」と、スサノオを葦原中国(あしはらのなかつくに=地上世界)から追放してしまいました。

こうして追放されたスサノオは、根の国へ向かう前に、姉のアマテラスに別れの挨拶をしようと高天原へ向かいますが、これが後に天岩戸(あまのいわと)隠れという、さらなる大事件を引き起こすことになるのです。